もの知りノート(2)
 “王”という字について

われわれの身近で日常使われている物事や言葉でその根拠や背景を知らない場合が意外と
多いようにも思われます。「もの知りノート」と題して細かい項目を少しづつ取り上げてみたいと
思います。
「王」という字についていろいろな解釈があり非常に興味深いものがあります。調べた範囲で述
べてみましょう。

1、現在中国における一般的解釈
「二」という字は数字以外に天と地を意味し、「三」という字は天と地とその間に存在する
人を意味するということになっています。
「王」という字はこの三者を貫くものであり、帝王を美化した表現だといわれています。
孔子は「一貫三為王」といっています。ここでいう三は天と地と人であり、この三つに通じ
た聖人が王であるべきだと主張しているのです。   
その意味に置いて王は世の中で唯一絶対の存在であるべきであり、複数の王が存在
することは上記 の理念とは矛盾することになります。
しかしその後、秦の始皇帝が「皇帝」の名称を使って以来、本来の「王」が意味する存在は
「皇帝」と呼ばれるようになり、「王」は単に封建国家における最高の爵位となったのです。
なお、「王」という字は指示文字(注1参照)の範疇にはいるということになります。

2、白川静氏(日本の漢字学者1910〜2006)の説

日本の漢字学者白川静氏は独自の説と体系を打ち立てました。
漢字はそもそも神に祈りを捧げるところから生まれたものであってこの点を看過してはい
けないというのです。たとえば「人」という字は神に祈りを捧げている人の姿の象形文字だ
と言っています。
「口」という字は人間のくちの象形文字ではなく、神に祈願するものを入れた箱(「さい」
と呼んでいます)の象形文字だと主張しています。
「王」という字は王の権威を表す置物の象形文字だというのです。

白川静氏の主張する王の置物(多くの玉−ギョク−の飾り物を施し、王の権威の象徴
として用いられたもの。まさかりの形から置物に変化したもので下になっている部分が刃
にあたる) 「字統」 白川静著 より引用

3、中国古文学者の話から

王」という字は甲骨文字(注2参照)以来いくつかの変遷を経てきたといいます。
「王」は最初は「」という字だったのです。これはきちんと端座している姿を正面からとら
えた形です。その後、一国の主として尊敬を込めて王冠を付け加えて「」という字にな

ったのです。
その後権力との関係を密接に示すものとして「  」という字がつかわれました。

これは主人が奴隷を痛めつける柄のない「まさかり」の象形文字なのです。下の部分が刃
の部分を表しています。奴隷社会においては暴力を以て統治し自らの地位を安泰に
したのです。したがってこれは王の権威の象徴としての意味をもつものです。
この点については白川氏の象形文字だという説とも共通しています。
時代が下がって金文(注3参照)では「」という字が使われています。
現在の「王」という字は象形文字が出発点であったことは間違いなさそうです。
現在指事文字だと解釈されているのは「後から意味を美化して付け加えた」と見るのが
正しい解釈だと思われます。

(注1)指事文字とは絵としては描きにくい状況を抽象的な印で表した字。
    例としては末(すえ)や本(もと)、上(うえ)、下(した)などが挙げられます。
(注2)甲骨(こうこつ)文字とは殷(商)の時代の書体で最古の漢字。亀の甲羅や
    牛や鹿の骨に刻まれたもの。字を刻みつけてこれを熱して、ひび割れの結果を
    見て占いに使われたのです。
(注3)金文とは青銅器の正面に鋳込まれたまたは刻まれた文字のこと。年代的には
    甲骨文字の後になります。

  参考文献
   「字統」          白川静             平凡社
   「神様がくれた漢字たち」 白川静、山本史也共著   理論社
   「漢字的故事」      呉東平             新世界出版社
   インターネットフリー百科事典 「Wikipedia」