もの知りノート(5)
 旧正月(春節) について

われわれの身近で日常使われている物事や言葉でその根拠や背景を知らない場合が意外と
多いようにも思われます。「もの知りノート」と題して細かい項目を少しづつ取り上げてみたいと
思います。
今年の旧正月(中国では春節という)は2月7日です。中国や韓国ではこの旧暦での正月を
大切にしています。日頃遠方にすんでいる家族も故郷に帰り一家団欒を楽しむ大切な日に
なっています。日本は今では都会も農村も新暦での正月を祝う習慣になっていますが、昭和
三十年代までは農村ではこの旧正月を大切にし、この旧正月に合わせていろいろな祝いの
行事が行われました。
この旧暦の正月は遅いときには二月中旬、早い年には一月下旬と約一ヶ月の幅の範囲内
で毎年変動します。なぜなのでしょうか?
これは暦の来歴から説き起こす必要があります。
以下調べた範囲で述べてみましょう。

1. 暦の種類

暦の種類は大きく分けて三種類になります。
一つは現在欧米や我が国でまた政治経済面では国際的に用いられている太陽暦です。
二つ目はイスラム諸国などで用いられている太陰暦です。
三つ目は日本では旧暦と呼ばれ、中国では農歴と呼ばれている太陰太陽暦です。
1.1 太陽暦
地球の季節や気候変動は太陽によって最も大きな影響を受けているのは周知の通りです。
この太陽の周りを地球が自転する周期を基準に(換言すると太陽の動きを元に)造られてい
るのが太陽暦(グレゴリオ暦ともよばれる−注参照)です。
一年の周期は正確には365.2422日です。これを12で割ると5日ほど余りが出ます。一年に
何度か31日の月をおかなくてはなりません。また365の余りの端数は四年に一度閏日を置く
ことにより解決する方法が採られました。
明治政府は明治五年に太陽暦に切り替えましたが、当初は閏日を考慮に入れていませ
んでした。閏日を採り入れたのは明治三十二年(1899)になってからでした。
今の暦は日本ではまだ100年少々の歴史しかありません。
(注)グレゴリオ暦 16世紀当時用いられていたユリウス暦が季節とのずれが顕著になってきた
ためローマ教皇グレゴリウス13世がユリウス暦を改良して1582年制定した暦。四年に一回閏
日があるが、400年に3回ほど閏日を置かず平年に戻すこととした。
1.2 太陰暦
「太陰」とは太陽の対になる言葉で「月」のことです。
即ち、月の運行を基準に暦を定めたものです。月の満ち欠けの周期は29.5日です。
これを12倍すると354日となります。365- 354=11となります。すなわち太陽の周期と比較
すると一年間約11日少なくなってしまいます。
これをそのまま続けて行くと16年もすると冬と夏が逆転するいうことにもなり大変違和感が
生じます。しかし、熱帯地域に属するイスラム圏では季節変動が少なく違和感がそれほど
生じません。現在でも太陰暦が用いられています。
また、太陰暦では常に月の初めは新月で15日は満月です。
1.3 太陰太陽暦
太陰暦を基準に季節変動を考慮して違和感をなくすよう調整した暦が太陰太陽暦です。
これは二、三年に一度閏月を用いることによって解決を図るようにしたものです。
日本でも明治以前用いられていたもので、現在でも旧暦として暦は作られています。
また中国、香港、マカオ、韓国、台湾、モンゴル、ベトナムなど各国で用いられています。
日本では旧正月と呼ばれつい最近まで農村では新正月よりも重きを置かれてきました。
中国では春節と呼ばれ一週間くらい休日になります。故郷を離れて生活している人たち
の列車やバスでの帰郷ラッシュは壮観です。年に一度家族が一堂に会し団らんすること
をとても大切にしています。韓国、台湾など各国でも同様です。
また、中国では農歴の8月15日は中秋の名月で月餅を食べながら家族の団らんを楽しみ、
遠くで家族と離れて生活している人たちは中秋の名月を見て故郷や家族や友人に思いを
はせるのです。
なお、閏月は6月または7月に置かれることが多いようですようです。
閏月のある年は一年13か月になります。
太陰暦は太陽暦に対して年間で11日少ないわけですから、旧正月も毎年11日早くなり
ます。昨年は2月18日だったのが今年は11日早くなって2月7
日が旧正月です。
しかし、閏年のある年は13か月になりますのでその分だけ後ろ倒しになるわけです。
旧正月(春節)は毎年11日ほど前倒しになり閏年の翌年に約一ヶ月後倒しになるこの
パターンの繰り返しなのです。季節と月がずれないようにするためには19年毎に7回の閏年
を置けばよいということになっています。

中国北京地壇公園の春節
 (参考)旧正月の日付
 2006年1月29日  2010年2月14日  2014年1月31日
 2007年2月18日  2011年2月03日  2015年2月19日
 2008年2月07日  2012年1月23日  2016年2月08日
 2009年1月26日  2013年2月10日  2017年1月28日

2. 中国における政治と暦の関係

日本でいままで使われてきた旧暦はもちろん中国から輸入されたものを基本にしています。
中国において暦は政治的な意味合いを除いて語ることはできません。
中国歴代の皇帝は「天子」とよばれすべてを超越した存在「天帝」からこの世の支配を委託
された存在なのです。従って、皇帝はこの世のすべてのことに精通していなくてはなりません。
季節変動や天変地異などももちろん含まれます。暦の制定も皇帝の重要な役割の一つです。
暦をより正確にするためいずれの時代の皇帝も天体観測や気象観測などに熱心に取り組ん
だのです。
皇帝は諸国の王を任命することができます。諸国の王が皇帝に従う証として皇帝が定めた時
間を受け入れる、すなわち皇帝のみに発行を許されている暦を拝領するということが行われま
した。
日本にも中国の暦がもたらされました。しかし後になって日本でも独自の暦か作られました。
宣明暦は800年間(862〜1683)用いられました。現在旧暦として使われているのは天保暦
(1844〜)を基本にしています。 

北京建国門にある清時代の古観象台(観測所)の観測機器

3. その他の関連事項

3.1 週について
暦の単位は年、月、週の概ね三種類です。
七曜即ち日曜、月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜は日本では平安時代の旧暦の
時代から存在していました。明治時代新暦に変更したときにも新旧の暦の曜日は一致
したのです。
ただし旧暦での曜日は古くは占いに使われる程度の役割しか果たしていなかったのです。
七曜(週)の概念は古くその発祥はバビロニアだといわれています。日本にはインドから中国
を経由して伝えられたもののようです。
中国でも太陽と月以外に火星、水星、木星、金星、土星は他の星とは異なる動きをする
ということで、観測の重要な対象となっていました。いまの日本の曜日の呼称は中国から伝
えられたものですが、中国では現在月曜日から始まって星期一、二、三という 呼称になって
います。ただし日曜日は星期天といいます。
六日働いて一日休む習慣は「神は六日かけて世界を作り七日目に休んだ」というユダヤの
神話とともに洋の東西に広まったのです。ただし、日本の旧暦時代は先に述べたように占い
に使われる程度で実用的なものとはなっていませんでした。
話は飛びますが、鎖国制度の江戸末期、中の浜万次郎(ジョン万次郎−注参照)が海で
遭難しアメリカの船
に救助され、アメリカの生活様式を経験する中で最初に最も驚いた事は、
七日に一度誰も働かない日曜日があるということだったそうです。
即ち日本人は当時曜日の概念はなく正月とお盆以外は休日はなかったのです。
農耕民族と狩猟民族の違いをそこに見るのは「うがち」すぎでしょうか?
農耕民 族は毎日の労働が稲などの農作物の手入れには欠かせなかったことを意味し、
狩猟民族は毎日働くと狩りをやりすぎて獲物を根絶やしにすることを恐れたのではないか
と私は思っています。
(注)中の浜万次郎(1827〜1898)高知県土佐清水市中の浜の生まれ、14歳の時漁に
出たあと遭難し、漂流の後143日間無人島で生活した。アメリカの捕鯨船ジョン・ハウランド
号に救われる。本名中の浜の姓は出身地の地名から採ったもの、アメリカ名JohnMung
のジョンは船名から採ったもの。アメリカに十年間滞在し、英語、数学、測量、航海術、造
船技術などを学び帰国、江戸末期から明治にかけて通訳、講師として活躍した。高知の
同郷の坂本龍馬(1836〜1867)は万次郎から聞いた世界観に感化されたところが大きか
ったと言われている。
3.2 六曜について
今のカレンダーにも「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」の六曜が書き添 えられて
いることがありますが、縁起の良い日、悪い日の判断材料に使われていますが、明治以前の
かっての七曜もこのような感じで使われていたようです。
現在六曜は結婚式、葬式や建物の起工式など日程を決める際には重要な要因になっ
ています。昔から習慣であると思われている方も多いと思いますが、日本でのこの歴史は浅
いのです。
明治政府が新暦を採用するようになってにわかに暦を発行していた業者が採り入れたのです。
すなわち新暦になると迷信的な暦注(毎日の吉凶や方角の善し悪しなどが暦にびっしり詳
細に書き込まれていたのです。人々はこの暦注によって生活の行動に制約を受けていまし
た)が廃止されたため、暦業者達はなんとか付加価値をつけようとして、いままで忘れさられ
た存在であった六曜に目をつけたのです。
本来六曜は中国の宋時代に作られて以来誰も使わず忘れ去られた存在であり、明治に至
るまで誰も知らなかったものでしたが、暦業者がこれを取り上げたのです。
あまりに無名な存在だったために新政府の規制の対象にならなかったのです。
新暦のカレンダーに今まで見たこともない六曜を入れ始めました。このように仏滅や大安は
明治になって急に造られた習慣で伝統もなく、もちろん科学的根拠も全くない迷信です。
結婚式や葬式がこのようなものに振り回されるのはいかがなものでしょうか?
大いに反省をし、改めるべき点だと思います。
3.3 月の地球に及ぼす影響
月の直径は地球の1/3.7、惑星と衛星との関係ではその比率は太陽系の中では最も大き
いといわれています。月の誕生については諸説あるが地球に火星ほどの大きな天体が衝突
しその反動で飛び出したとする説が現在最も有力です。

かって月は現在よりも地球の近くにあり、より強力な重力と潮汐(ちょうせき・しおの干満)力
を及ぼしており、また地球はより早く回転していたと考えられています。(現在干満の差を1m
とすると当初はその千倍すなわち1000mの干満の差があったといわれています。また、現在
月は毎年3.8cm地球から離れていっていると計測されています)
そうした強い潮汐作用は生命の誕生や進化に影響を与えたのではないかと考えられていま
す。海に誕生した生命は意図的に陸上に上がったわけではなく大きな潮汐作用によって陸
地に取り残されたところから進化が始まったのではないかと言われています。
また、月は地球の地軸の傾きを安定させているとも考えられ、もし月がなかった場合、或い
は現状の月よりもかなり小さかった場合、地球の地軸の傾きは現在と比較して劇的に変
化し、それに伴って激しい気候変動が発生し生物は現在のように発達できなかったであろ
う事が示摘されています。

(参考文献)
 フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」
 大連雑学辞典