もの知りノート(6)
 “箸”の文化比較

われわれの身近で日常使われている物事や言葉でその根拠や背景を知らない場合が意
外と多いようにも思われます。「もの知りノート」と題して細かい項目を少しづつ取り上げてみ
たいと思います。
日本の食文化も中国からの伝来によるものが多く挙げられます。その中で「箸」もやはり中国
から伝えられたものですが、日本は食べ物の手前に横に置くし、中国や韓国は右側に縦に
置きます。
また箸の形状も異なります。なぜでしょうか、非常に興味深いものがあります。
調べた範囲で述べてみましょう。

1、箸の起源

5000年前の中国で煮えたぎった鍋から食べ物を取り出すのに、二本の木の枝を使ったのが
箸の始まりだといわれています。
また、箸はもともと竹の棒の中央部分を加熱して曲げて作った「トング」(現在でもパン屋さん
でパンをはさむ為に置かれているものを想定するとわかりやすい)に由来するという説もありま
す。中国から東南アジアを中心として一帯に広められたものと思われます。
現在中国以外に日本、韓国、台湾、シンガポール、ベトナム、モンゴル、北朝鮮などの国
で日常的に使われています。
タイでは手づかみで食事をしていたが、今では麺類を食べるときには箸を使うことが多いよう
です。また中華料理、日本料理の世界的普及により欧米でも箸を使える人口が増えてい
るようです。箸を使う人口の比率は世界の人口の30%を占めると言われています。その他は
西欧式のナイフとフォークまた手を直接使って食事する人口も多いのです。

2、箸の形状と置き方の違い
2、1箸の形状の違い

箸の素材と形状や長さは様々です。
右の写真は一つの事例ですが、上から、台
湾のプラスチック、中国の磁器、チベットの竹、
インドネシアのヤシの木、韓国のステンレス
(とスプーンのペア)、日本の夫婦のペアの箸、
子供の箸、割り箸の順に並べてあります。

日本のものは箸の先が細くなっているものが多い。骨付きの魚を食べる際骨と身をより分け
やすくするためです。
中国のものはやや長く先も日本のものに比べてそれほど細くなっていない。また大皿からの
取り箸は一般的になく、少し前は自分の食べている箸でお客に料理を取ってあげるのが礼
儀でした。一時期のSARS騒ぎから最近は中国でも衛生面に注意するようになって、取り
箸を置いてあるところもあり、また自分の箸でお客さんに料理を取ってあげるという習慣はあ
まり見かけられなくなりました。
朝鮮半島では戦乱が多かったため箸に耐久性が求められた、そのため金属製のものが多
いと言われていますが、焼き肉料理などが多いため金属製の方が実用性があるのではな
いかと私は考えています。
韓国ではご飯はスプーンで食べるのが一般的でおかずは箸を使うようです。

2、2箸の置き方の違い

中国では箸は食べ物の右側に先を前方にして縦に置かれている。一方日本では手前に先
端を左にして横に置かれています。なぜでしょうか?
中国ではテーブルの中央に料理が山盛りに置かれている、各人はそれを箸で自分の小皿に
とってきて食べることになる。必然的に前方への箸の動きが多くなります。
一方日本では個人毎にすでに盛り分けされて目の前に置かれている場合が多い。手前で
の横の動きが多くなります。
中国の箸がやや長く、日本の箸が比較的短いのもここに起因するようです。
日中戦争のさなか送り込まれたスパイがすべて完璧にこなしたのに、箸の置き方を不注意に
も間違えて身元がばれてしまったといううわさ話がありますが、箸の置き方は長年身に付いた
変えようのない習慣なのです。

3、その他の関連事項

3、1箸の呼称の違い

先に述べたように箸は中国から伝えられたもので、箸という漢字もまた中国から伝えられた事
は間違いありません。しかし、中国ではいま箸という字は日常的には全く使われていません。
箸のことは子(クワィズ)と言います。箸は古い言葉です。三国時代だと言われていますが、

船乗り達の間で箸は北方の発音で「ジュウ」と発音し「住」即ち留まる、船が進まなくなるとい
う発音と同じで、また南方の発音でも「止」や「滞」と発音が通じて忌み嫌われた。
そこで竹冠はそのままにして下に速いを意味する快という字を加え子という字を作ったの

です。今では箸という字は日常の会話ではもちろん文章上でもほとんど使われません。

3、2その他習慣の違い

・日本では「衣食住」といいますが、中国では移動手段も加えて「衣食住行」といいます。
これらのうち食に関する習慣は日中とも最も変化が少ないといわれています。生活に最も
密着していて食材や調理方法、味付けなど変えることが難しいのではないでしょうか。
日本人は一般的に淡泊な味を好み、中国人は脂っこく且つ濃い味を好みます。
中国では「民以食為天」といいます。民衆は食を以て天(最も大事なもの)とするという
意味です。中国の朝の挨拶は「吃了ma?」(ご飯食べた?)がふつうです。
・日本は食材そのものの味を大切にし、中国では食材そのものより調理方法によって味
付けを行うのを重要視しています。即ち加熱したものを好み、生ものや冷たいものは体に
良くないとして、基本的に好みません。
ビールなども冷やさないで生ぬるいものを飲む人が多いようです。
・来客を接待するとき日本では残さないようほどよい料理の量を注文しますが、中国では
料理を有り余るほど沢山注文します。無駄ではないかと思うほど余るほど注文しないとお
客を満腹にする接待とはみなされないし、またケチだと思われる心配があるからです。
日本ではレストランでは残った料理を持ち帰ることは刺身など生の料理があり中毒などの
心配もあって、原則禁止ですが、中国ではほとんどが熱を加えた料理なので、持ち帰りは
自由です。
「包」(バオ)というと、既に用意してある発泡スチロールの容器に店員が手際よく盛り込んで
持ち帰り用の包みにしてくれます。
・日本の家庭では個人専用の箸が使われていますが、中国では個人用のものはありません。
中国人を家庭に招いて中国人のお客にのみ割り箸を出すのは一人だけ除け者にするマナ
ーに反する行為になります。
その際は全員おなじ箸(例えば割り箸など)を使って食事するべきでしょう。

参考文献
インターネットフリー百科事典「ウィキペディア」
「閑話中国人」 易中天著 上海文芸出版社
「中日習俗文化比較」 秦明吾主編 中国建材工業出版社